砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「バスィール公国、第三王子、スワイド殿下でございます」


カリム・アリーの声が聞こえ、玉座の正面の扉が開き、静々と入って来たのはレイラーの一番下の兄、スワイド王子だ。

リーンは対面したことも、言葉をいただいたこともない。ほんの数回、遠目に姿を見た程度だった。

スワイド王子はリーンより三歳年上の二十歳。髪はこげ茶色をしていて、瞳の色はレイラーと同じブルー。肌の色はどちらかといえば白く、ひ弱な印象を受ける。だが、兄弟の中では一番剣の腕前がよいという噂だ。

目鼻立ちがくっきりしていて、宮殿の侍女たちの間で最も人気が高いのが、このスワイド王子だった。

三人の王子はいずれも独身。レイラーの輿入れを済ませ、クアルン王国との関係が安定してから、王子たちに妻を娶るという話を聞いたことがある。


(今になって思えば、大公妃さまは絶対にわたしを、殿下たちの傍には行かせて下さらなかったわ。それって……本当は兄妹だから? 間違いを犯させないためだったのかしら?)


リーンがぼんやりと考えていると、ふいにサクルの声が聞こえた。


「それでよいな、リーン」


ハッとして玉座のほうを向く。

すると、サクルがこちらを睨んでいた。その目は酷く怒っている。


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