砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)

(2)陰謀と策略

「陛下、今回のご命令、裏に何をお考えですか?」


溜まった仕事を終え、王都や国内外の情勢を確認すると、サクルはふいに黙り込んだ。そこに、カリム・アリーが静かに尋ねる。


「レイラーの件か? なかなか妙案であろう」


サクルはあのときのレイラーやスワイドの顔を思い出し、片笑みを浮かべた。


レイラーは狂王の評判を嫌悪し、花嫁の立場から無謀にも逃げ出した愚か者だ。

いずれ時間を空けてバスィールの宮殿に逃げ帰れば、大公に守ってもらえると思ったのだろうが、笑止千万というもの。

そんなレイラーだが、サクルの顔を見るなり、正妃になりたいと言い出した。

宮殿の煌びやかさに惹かれたのか、王の容姿に惹かれたのかは定かではないが、あまりにも軽薄で浅慮が過ぎる。あの小娘なら、いくら王の異母兄とはいえ、側近に過ぎないカリム・アリーとの結婚を素直に受け入れるはずがない。


「結婚の儀式を行うとでも言い、国境近くの野営地にしばらく留まるがいい。隙を見せてやれば、喜び勇んで国に逃げ帰るだろう。あとは大公に任せればよい」

「それはお優しいことですね。てっきり、捕まえて砂漠に迷い込んだ飢えたシャガールの餌にしろ、と言われるかと」


カリム・アリーの言葉にため息をついた。

本音を言えばそうしてしまいたいところだ。だが、さすがに罠にはめてレイラーを殺したとなれば、リーンもサクルを恐れるようになるかもしれない。


「嫌なら逃がしてやる必要はない。そのまま妻にしてしまえ。どうせひとり身、庶子も愛妾もおらんのだ。あんな娘でも一国の王女には違いあるまい」

「陛下が“さそり女”と呼ぶ娘を、ですか? かなり強烈な毒を持っていそうだ」


困った様子で答えるカリム・アリーをジッと見つめ、サクルは真顔で言った。


「だが――毒は使い方ひとつで薬になる」


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