砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「ここをどこだと思っておられるのですか? 王宮の、それも宮殿の中で王の悪口など……」

「お前が私を密告するというのか?」


スワイドの目が冷たく光った。


「このとおり、侍女の前ではありませんか? それに、王の目がどこに光っているか」


すると、スワイドはさも可笑しそうに笑い始めた。


「知っておるぞ。その侍女は口もきけん女ではないか。話など聞いてもわかるものか!」


そう言ってリーンのほうに一歩近づく。

すると、シャーヒーンはリーンを庇うようにして、懐剣を取り出した。

そんなシャーヒーンを見たスワイドは何を思ったのか、剣を抜いて構えたのだ。


「おやめくださいっ! スワイド王子!」


広間では剣を外していたが、宮殿内では腰に下げることを許されたのだろう。とはいえ、王の侍女に向かって抜いてよいはずがない。

リーンの知るスワイドは、これほどまでに迂闊な乱暴者ではなかった。

いったいどうしてしまったのだろう、と考える間もなく、スワイドはシャーヒーンに斬りかかる。

そのとき、シャーヒーンはリーンを見つめた。


――早くお逃げなさい。


その厳しいまなざしに、リーンはすぐさま身を翻した。


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