砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
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シャーヒーンにとってサクル王はすべてだった。

そんな王の妻となる娘――リーンを初めて見たとき、嫉妬がなかったといえば嘘になる。

どれほど近くで仕えても、女の範疇に入れてもらえるはずがない。だが、それ以上のものを王は与えてくれた。


シャーヒーンは自分がいつから生きているのか、どうしてこのような姿になったのか、そして、いつまで生き続けるのか、何もわからない。

親兄弟と呼べる存在がいたのかも、ましてや、自分の本性が鷹であるのか人間であるのかも記憶になかった。

ふと気づいたときにはこの姿で、奴隷市で売り買いされていたのだ。


人の姿であるときは主人に性奴隷として陵辱の限りを尽くされた。

鷹に変化(へんげ)することが知られると、見世物小屋でたびたび姿を変えさせられることになる。逃げぬように、人を襲わぬように、と足と首に枷をはめられた。

どうすれば死ねるのだろう?

そう思い続けていたとき、サクル王が彼女を買った。


王は彼女にシャーヒーンの名前を与え、空に放った。

そのとき、彼女の魂はサクル王に繋がれた。生涯の主、彼より自分が長く生きたときは、サクル王の子々孫々まで命ある限り守り続けるつもりでいる。


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