砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「殿下、ただちに国王陛下のもとに参りましょう。充分に謝罪をして、せめて国外追放に」

「国外? それはこの私にバスィールに戻れと言うことか?」


肩をさすりながら、目を剥いてスワイドは怒る。

アミーンには何を怒られているのかさっぱりわからない。


スワイドはクアルンの法を犯している。国王に逆らえばどうなるか、女であれば命は助けてもらえるかもしれない。

だが男であれば、どんな身分であっても聞き入れてはもらえない可能性が高い。


「陛下は非常に厳格な方です。法を破れば、確実に制裁が下るでしょう」


アミーンは礼儀に則り、スワイドに膝をついて頼んだ。


「おとなしく、レイラー殿下を伴い、国に帰ると告げれば……」


現状で衛兵部隊の最下層にあたるアミーンには、謁見の広間でサクルが口にしたことなど、知るよしもない。素直に兄王子が妹を迎えに来たのだ、と信じていた。

まさか、このスワイドが人殺しの罪を犯して逃亡中だ、などとは想像もできないだろう。


「……わかった」


スワイドの静かな声にアミーンはホッと息を吐く。


「では、私と共に陛下のもとへ……」

「その前に、私の剣を返してもらおう。そして、お前は剣を引け。そうでなければ、お前と共に行くわけにはいかない。私にも、一国の王子としての立場がある」


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