砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
スワイドの声になんの悪意も感じられなかった。

異国の地で、同行した側近は宮殿の門外に残され、スワイドだけ入場が認められたと聞く。心細さのあまり、悪魔の水の誘惑に負けたのかもしれない。

なんといっても、バスィールの宮殿では大切にされている王子だ。


(それに、国王陛下が帯剣を認められたのだ。王子の名誉を、私ごときが奪うわけにはいかない)


サクルが帯剣を認めた思惑など知らないアミーンは、自らの剣を腰に納めた。そのままスワイドの剣を拾い、膝をついて彼に差し出す。

そして、スワイドはその剣を手に取るなり、ニヤリと笑い振り上げた。


アミーンがハッと気づいたときには遅かった。

とっさに飛び退いたため、頭上に振り下ろされた刃はアミーンの右肩を掠める。左手で剣を抜こうとしたが、逆手ではそれもままならない。


「所詮、利用されるだけの馬鹿な男だ」


それは、普段、スワイドが人前で見せる顔ではなかった。

醜く歪んだ男の本性をさらけ出している。


「なぜです? 次期大公に有望視されていた殿下が……このような」

「うるさい、うるさい、うるさい!! 王女の名誉を傷つけた貴様に鉄槌を下した。王にはそう説明すればよい。とっとと死ね!」 


スワイドがふたたび剣を振り下ろしたそのとき、シャーヒーンがスワイドに向かって体当たりをしたのだ。


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