砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
リーンはスワイドに向き直る。


「スワイド殿下……いえ、兄上さま。どうかお願いいたします。このまま外で待機している側近を連れ、バスィールにお戻りください。どうか……」

「馬鹿を言うな! いや、その、そうだ、この女にお聞きください」


スワイドはまるで勝ち誇ったように意気揚々と答えた。

彼にはサクルがすでに、スワイドの名から『王子』の呼称を外していることなど気づいてもいない。


「聞きたいところだが、シャーヒーンは言葉を話さぬ。――スワイド、砂漠の掟を知っているか?」


突如違う話を振られ、スワイドは首を傾げた。


「砂漠で生き残るのは強者のみ。ゆえに、強い者が正義を口にできる。スワイド、お前がシャーヒーンを殺せばお前の言い分を認めよう。できぬなら、このまま剣を納めて国に戻るもよし――好きなほうを選べ」


スワイドは目を輝かせ、剣先をシャーヒーンに向けた。


背後でリーンの小さな悲鳴が聞こえた。

しかし、後を追ってきたカリム・アリーが黙らせたようだ。


一方、アミーンも傷口を押さえながら抗議を口にしようとするが、サクルの視線を受け、一瞬で口を噤む。

サクルはシャーヒーンの透明な瞳に向かって命じた。


「シャーヒーン、正義を行え。王命だ」


その瞬間、シャーヒーンの瞳が輝き始めた――。


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