砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
王に対して、身分不相応な願いなのかもしれない。それでもリーンは聞かずにいられなかった。

そばにいられるだけでいい、そう思っていたことは嘘ではない。サクルの妻にしてもらえるなら、なんでもしよう、と。

だが、ひとつの願いが叶えられ、手にした幸福は少女を欲張りにする。

贅沢な宝石も衣装もいらない。ただそばにいて抱かれるだけではなく、愛の言葉が聞きたいと願った。


そんなリーンの願いにサクルの返答は――。



「――断る」



たったひと言だった。


リーンの心は一瞬で冷たくなる。まるで、暗闇の砂漠に放り出された気持ちだ。


「リーン、いきなり何を言い出す? 私の妃となったのが不満か? 愚かなことは考えずともよい。お前はただ、こうして私を受け入れていればよいのだ」


サクルはリーンの脚を反対側に下ろし、彼女をうつ伏せにした。リーンに膝を立たせて軽く腰を浮かせると、今度は背後から押し込んだ。

リーンは涙が浮かんでくるのを抑えられない。

サクルを求め、その泥濘(ぬかるみ)に抗いようにない剣を突き立てられながら、乾いていく心に痛みを感じ、静かに涙を零した。


< 61 / 134 >

この作品をシェア

pagetop