砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「……リーン……」


名前を呼ばれ、ハッと目を覚ます。

サクルに抱かれ続けて、いつの間にか意識がなくなってしまったらしい。

ふと気づけば、リーンは寝台に横たわっていた。 


最初に出会った日、王の側近カリムを名乗った彼に、純潔を確認すると触れられたときもそうだった。気を失ったリーンを寝台に寝かせ、水に濡らした布で身体を拭いてくれた。

今もそうだ。脚の間にべたつく感触はなく、リーンは夜着を身に着けている。

おそらく侍女を呼んだわけではなく、サクル自身がリーンの世話をしてくれたのだと思う。


(聞かなければよかった……あんなお願いなんてしなければ。知らなければ、まだ少しは夢を見ていられたのに)


そうでなければ、サクルの優しさに感動して、愛されているのかもしれない、と思えただろう。

愛の言葉をねだった自分が愚かでならない。


「リーン、目が覚めたか?」

「……はい。あの……」


朝であれば、閉ざされた窓の隙間から薄らと光が射し込んでくるはずだ。ならばまだ夜中なのだろう。窓のほうを見てリーンはそんなことを考えた。


「起きられるか?」


サクルの言葉に疑問を覚えつつ、リーンはうなずく。そして寝台から下り、床に足をついて立ち上がった瞬間、ふらっと身体が揺れた。


「おっと。どうやら、まだ腰が立たぬようだな」


リーンはふいに思い出し、頬が熱くなった。

サクルの責めに翻弄され、全身を痙攣させながら何度も昇り詰めたときのことを。腰を上げていられなくなり、立とうとしても膝が笑い始めたころ……ようやく、サクルはリーンを自由にしてくれた。


(あれは何時くらいだったのかしら? 意識が朦朧としていて、よく覚えてないのだけれど……)


リーンが夜明けまでどれくらいあるのか尋ねようとしたとき、サクルが口を開いた。


「砂漠の舟を用意した。今からオアシスに行く。よいな?」


サクルの言葉に驚きながら、「はい」とリーンは答えていた。


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