砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
アミーンは恐々と彼女の細い腰に手を当て、ほんの少し目覚めたように背中を撫で始める。


「シャーヒーンどの……シャーヒーンどの……」


うわ言のように繰り返し、アミーンは少しずつ腰を上下させた。

ふいにアミーンはシャーヒーンの身体を抱きしめ、口づけた。激しい波に攫われたような……彼女が教えたばかりの愛撫をアミーンは返そうとする。シャーヒーンの最も深い部分に、アミーンは欲情ではなく愛情を突き立ててくる。

アミーンの首筋から汗が玉のように噴き出した。力任せではあるものの、彼は懸命にシャーヒーンの躰を求め、すべてを知ろうとする。


その行為は――シャーヒーンの中に不思議な感覚を甦らせた。


遥か昔、こうやって男に抱かれた記憶がある。

愛する男に、そのときの彼女は白鷹ではなく、ひとりの人間の女。


(ああ……私は人間だったのね。でも、どうしてこんな姿に)


シャーヒーンの記憶に漆黒の髪をした自分の姿が浮かび、そして、霧がかかったように消えていく。

その向こうに大きな人影と、シャーヒーンの半分にも満たない小さな人影が見え……。


(お願い、もう少し……私が誰だか教えて……なぜ、白鷹になったのか……)


「す、すみません……もうっ!」


シャーヒーンの躰を下から突き上げる熱い杭が、ふいにはじけ飛んだ。飛沫は彼女の中に降り注ぎ、奔流となり体内を荒れ狂う。

その間、シャーヒーンは強く抱きしめられていた。実に、王に仕えて以来、初めて男を体内に受け入れたのである。


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