砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
今のハーレムにサクルが抱いた女は数えるほど。

それも、侍女として務める寡婦ばかりで、十代のころの戯れに過ぎない。リーンの立場を脅かすような女は、ひとりもいなかった。


(愛している、か……一度も口にしたことのない言葉だ。何がなんでも妻にしたい。他の男には指一本触れさせたくはない。いや、近くに寄って話すことすら許可したくない。リーンを抱いてからは、他の女に触れたくもない。……それは愛とは違うのか?)


一度だけでいい、少しでも好きなら、リーンはそんなふうに言った。


だが、サクルにすれば冗談ではない。これほどまでの好意を行動で示しているのに、なぜサクルの心を疑うような質問を繰り返すのか。

この、オアシス行きもリーンのことを思っての計画だ。

不在中にスワイドの件は片がつくだろう。それだけではない。サクルにとっては気にならない周囲の視線もリーンにとっては苦痛だと思えばこそ、危険を承知でふたりきりになる時間を作った。


たまたまスワイドが問題を起こした直後に“砂漠の舟”がみつかったが……。


リーンを横抱きにしたまま、足先でラクダの首を操作する。

やがて、美しい月が朝の光に消えそうなころ、目的のオアシスが見えてきたのだった。


「サクルさま……大きな岩が見えてきたのですが」

「そうだ」

「この間のようなオアシスとは違うのですか?」


最初に“砂漠の舟”に乗り、リーンを連れて行ったオアシスのことだろう。

緩やかな砂丘の谷間にできた数本の木に囲まれた小さなオアシスだった。しかし、今向かっている場所は違う。


「あのようなオアシスだと、この辺りでは昼間の温度ですぐに涸れてしまうだろう」


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