砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
不毛地帯(アネクメネ)まではまだ距離がある、とはいえ、この辺りも気温差は大きい。とくに、昼間の高温は人が不都合なく移動できる温度を超えている。
こうして夜に移動しなければ危険なほどだ。
砂漠の宮殿は特別な建て方をしており、充分に太陽の光を遮っているからこそ楽に過ごせている。
そのとき、サクルの腕の中でリーンが震えた。
「あ、あの……ひょっとしてこの辺りは涸れ谷がたくさんあるのでしょうか?」
その言葉にハッと気がついた。
リーンは大きな岩を見て、五つ岩のオアシスの惨劇を思い出したのだろう。あの砂嵐に紛れた魔物(ワーディ)の襲撃で、リーンを迎えにやった侍女や兵士はほとんどが死に絶えた。
戦場を経験したことのないリーンにとって、人生観を揺さぶるほどの衝撃だったに違いない。
「安心いたせ。この付近に涸れ谷はない。そもそも、オアシスがないのだ。涸れるほどの水源がない、ということだ」
「そんな場所に、たったひとつだけオアシスが?」
「そうだ……あの、岩の中にある」
宮殿ほどの大きな岩。そこに、ラクダが一頭入り込む割れ目があった。
この広大な砂漠の中で数箇所、いかな水使いとして神官(マー)の最高位(ムヒート)にいるサクルでも“砂漠の舟”の案内なしでは探し当てることのできないオアシスがある。
ここがそのひとつ。
サクル自身、訪れたのはほんの数回だ。ここを出て、宮殿に戻ることはできても、ふたたびたどり着くことができない。そんな不思議な場所だった。
こうして夜に移動しなければ危険なほどだ。
砂漠の宮殿は特別な建て方をしており、充分に太陽の光を遮っているからこそ楽に過ごせている。
そのとき、サクルの腕の中でリーンが震えた。
「あ、あの……ひょっとしてこの辺りは涸れ谷がたくさんあるのでしょうか?」
その言葉にハッと気がついた。
リーンは大きな岩を見て、五つ岩のオアシスの惨劇を思い出したのだろう。あの砂嵐に紛れた魔物(ワーディ)の襲撃で、リーンを迎えにやった侍女や兵士はほとんどが死に絶えた。
戦場を経験したことのないリーンにとって、人生観を揺さぶるほどの衝撃だったに違いない。
「安心いたせ。この付近に涸れ谷はない。そもそも、オアシスがないのだ。涸れるほどの水源がない、ということだ」
「そんな場所に、たったひとつだけオアシスが?」
「そうだ……あの、岩の中にある」
宮殿ほどの大きな岩。そこに、ラクダが一頭入り込む割れ目があった。
この広大な砂漠の中で数箇所、いかな水使いとして神官(マー)の最高位(ムヒート)にいるサクルでも“砂漠の舟”の案内なしでは探し当てることのできないオアシスがある。
ここがそのひとつ。
サクル自身、訪れたのはほんの数回だ。ここを出て、宮殿に戻ることはできても、ふたたびたどり着くことができない。そんな不思議な場所だった。