砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
岩の中には地下に広がる空洞があった。

その中央には、なみなみと水を湛えた泉が湧き出ている。昼間は温かく、日が沈むと信じられないほど冷たい。

最上部は外に通じる穴がいくつも開いている。そうでなければ息が苦しくなるだろう。


空洞の中にテントが張られていた。

宮殿ほど立派なものではないが、手作りの寝台も置かれている。横穴のひとつが食料庫になっており、保存用に処理された羊や山羊の肉、乾燥させたナツメヤシの実などがあった。


ラクダから下りるなり、リーンは泉の縁に駆け寄る。

水に手を浸して、


「冷たい! サクルさま、宮殿の水より冷たいです」


などとはしゃいだ声を上げた。


「今のうちに水瓶に移しておかねばならん。日が高くなれば、湯を飲むことになるぞ」


その言葉にリーンは慌てて泉の横に置かれた桶を手に取る。水をすくい、テントの近くにある水瓶をゆすぎ、中に注ぎ込んだ。

サクルはラクダに積んできた新鮮な食料や衣類、必需品を下ろす。


「サクルさま……お食事の用意はどうするのでしょう?」

「決まっておろう。おまえか私だ」


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