砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「ならば、おまえから口づけるのだ」


自分でも驚くほど欲情に掠れた声だった。昨夜もリーンが意識を失うまで抱いた。激しく突き上げ、サクルも我を忘れた。


本来、女を抱くときに夢中になるなどあり得ないこと。

そんな無防備な真似をしていては、何度寝首を掻かれたかわからない。精を放つ瞬間、男の防御力は格段に落ちる。危険を察知できなくなるのだ。それを避けるため、サクルはどんなときも平常心を忘れたことがない。


(そんな行為に喜んで勤しめるものか……大臣も側近も勝手なことばかり言いおって)


常に警戒を解かなかったサクルにとって、リーンとの時間は無防備極まりなかった。

いざというときに備え、周囲に対する警戒を解く訳にはいかない。リーンを守れなくなるからだ。

だが、リーンに対しては一切警戒していなかった。


リーンはサクルの首に手を回し、ぶら下がるように唇を重ねた。

柔らかい唇がふわりと触れる。なんと甘やかなことだろう。リーンは口づけひとつで、サクルの神経を溶かしてしまう。狂おしいほどの思いが唇に伝わり、サクルの身体に流れ込んでくる。リーンは全身で愛を告げていた。

堪え切れず、サクルはリーンを抱き上げ地面に座り込み――。


「サクル……さま」


リーンの震える唇からサクルの名がこぼれた。


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