砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)

(2)闇の声

~*~*~*~*~


(サクルさまを怒らせてしまったの?)


リーンはサクルから顔を隠し、密かに涙をこぼした。

ただでさえ、愛の言葉をねだって彼の機嫌を損ねてしまった。それをすべてなかったことにしたくて、彼の役に立とうとするのだが、逆効果になっているようだ。

頑張ってはしゃいで見せ、明るい笑顔を作る。

しかし、サクルの優しさに触れるたび、これが愛情からであったなら……そんな思いに囚われてしまう。

気づけば胸に切ない思いが湧き上がり、泣きそうになるのを必死で堪える自分がいた。


敏感なサクルはそんなリーンの様子にすぐさま気づき、その都度、表情が曇ってしまう。

リーンはリーンで、顔を強張らせるサクルを目にすると、また苦しくなり……悪循環だ。


(妻にしてもらえると思ったときは、あんなに幸せだったのに。どうしてこんなことを考えるようになってしまったの?)


サクルのそばにいられると思っただけで、胸がぽかぽかと温かくなり、雲の上に乗った気分だった。

幸せで、涙がこぼれそうなほど幸せで、今も離れることなんて考えられない。

けれど、胸の温かかった場所がチクチクと痛むようになった。ときどき重苦しくなって、どうしても笑顔でいられなくなる。


サクルに飽きられてしまう。

嫌われてしまう。

あと何夜、何回、愛しむように抱いてもらえるのだろうか?


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