砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
ハッとした瞬間、リーンは寝台の上に身体を起こしていた。


テントの中は完全なる闇に包まれている。

リーンが眠ったのを見て、サクルが灯りを消してくれたのかもしれない。その証拠に、テントの外には幾つかの灯りが点いたままだった。

リーンはサクルの気配を感じ取ろうと、テントの外に意識を集中させる。


しかし、何も感じることができない。


(これも夢なの? でも、なんだか静か過ぎるような……サクルさまはいったい)


寝台からゆっくりと足を下ろし、裸足のまま絨毯の上を歩いて行く。扉代わりに吊るされた厚手のカーテンを手ですくい上げ、リーンは辺りを見回した。


「……サクルさま?」


オアシスは変わらず、なみなみと水を湛えている。

水辺に佇んでいた“砂漠の舟”白いラクダの姿も見えない。


(どこかに行ってしまわれたの? わたしひとり残して……)


岩の内部はしんと静まり返っている。

リーンは外歩き用の靴を履くと、恐る恐る歩き始めた。水辺に近づき、そっと手を入れてみる。

ほんのわずか水面が揺らぎ……。


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