砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
何かがおかしい。何か変だ。そう思うのだが、それが何か、わからない。


「ああ……どうして……わたしは」

『いいだろう。ではまず、私を……スワイド王子を信じると言うのだ。そして私と直接会い、話した上で王のことを決めればよい』


それぐらいなら、スワイドの話を聞くだけなら、そんな気持ちがリーンの中に浮かんだ。


刹那――リーンの前に岩の裂け目が見え、そこから外の風が吹き込んでくる。


「私を信じてくれて嬉しいよ。さあ、リーン出ておいて。そこを通り抜けて……顔を合わせて、話をしようじゃないか」


それは岩の裂け目から聞こえてくるスワイドの声だった。

直接耳に入る声は、どこかこれまでと違って聞こえる。

リーンの心を覆い尽くしそうな黒い闇が少しだけ薄くなった。


「スワイド王子? なぜかわかりませんが……足が動かないのです。外に出てはいけない、と言われているかのようで。どうか、王子のほうからお越しいただけませんか?」


他意はなかった。本当に、リーンの足はピクリとも動かず、まるで何かの呪文で動きを封じられているみたいなのだ。

もしそうなら、サクルがやったに違いない。それはなんのためだろう? 


(わたしを逃がさないため? まさか、こんな場所で、逃げようなんて命知らずにもほどがあるわ)


そう思ったとき、リーンはサクルから聞いたことを思い出した。

このオアシスはサクルですら“砂漠の舟”の案内なしではたどり着けない場所、そう言っていた。

その場所に、どうして他国の王子が、それも神官ですらないスワイドがやって来られたのだろう?


< 89 / 134 >

この作品をシェア

pagetop