砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
心の闇はさらに薄くなる。


「スワイド王子……ここにはどうやって来られました? “砂漠の舟”の案内があったのですか? しかし、王子は神官ではありませんよね? なのに、どうして」


リーンは立て続けに質問するが、裂け目の向こうからスワイドの返事は聞こえなくなった。


トクン……トクンとリーンは心臓の鼓動が速まっていくのをはっきりと感じる。


バスィール公国から兵が助けに来たというのは本当だろうか?

あの声はスワイドに間違いなかった。だが、少しずつ、彼らしくなくなっていったような気がするのは……。


スワイドと話してもいいと思ったのは間違いだったのではあるまいか?

他にも何かリーンは見過ごしているのかもしれない。そんなことを彼女はゆっくりと動き始めた頭で考える。

リーンは少しだけ身体を裂け目に傾かせた。

足は動かないが、裂け目から向こう側を覗くことくらいは可能だ。だが、そこは真っ暗で何も見えなかった。外は夜のはずだから、それも当然かもしれない。


しかし、サクルはどこに行ったのだろう?

サクルは何を考えて……。

そのとき、リーンはひとつのことに気づき、背筋に悪寒が走った。


「スワイド……王子。先ほどなんと申されました? “おまえはサクル王から愛を告げられたことがあるのか?”と。そう尋ねられましたよね? なぜ、あなたが……王の名前を口にされたのです?」


ドキンドキンと心臓はより一層速く打ち始める。


「スワイド王子、お答えください! どうして王の名前を――」


次の瞬間――リーンの目の前に真っ赤な目玉が二個浮かび上がった。


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