砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
(4)月長石の伝令
「……リーン?」
リーンの声が聞こえた気がした。
サクルは奇妙な気配を漂わせた風に、ザワッと首筋を撫でられる。闇の中でも輝く金色の髪をかき上げ、面白くなさそうに首の辺りを手で擦った。
(結界は完璧だ。何者もあの洞窟内に入り込むことは不可能だろう。――リーンが望まぬ限りは)
空には無数の星が瞬き、ふたつに斬られたかのような月が見下ろしている。
たしかに、急を告げるシャーヒーンの声を捉えたのだ。目覚める様子のないリーンをそのままにし、サクルは“砂漠の舟”を操り外に出てきた。
だが、四方を見渡しても、白鷹の姿は見当たらない。
かなりの距離を歩き回ったが、白き羽の一片すら見つけることができなかった。
(これはどういうことだ? まさか……罠?)
オアシスにひとり残したリーンが気にかかる。急ぎ引き返そうとしたとき、サクルは視界に違和感を覚えた。
砂丘の頂上に黒い物体が見える。
シャーヒーンであるならそれは白い影であるはずだ。
“砂漠の舟”を下り、その場を動かぬように命じた。サクルは細身の片刃刀シャムシールを抜き、警戒心を露わにして黒い物体に近づいていく。
その姿がしっかりと目に入ったとき、サクルは驚きの声を上げていた。
リーンの声が聞こえた気がした。
サクルは奇妙な気配を漂わせた風に、ザワッと首筋を撫でられる。闇の中でも輝く金色の髪をかき上げ、面白くなさそうに首の辺りを手で擦った。
(結界は完璧だ。何者もあの洞窟内に入り込むことは不可能だろう。――リーンが望まぬ限りは)
空には無数の星が瞬き、ふたつに斬られたかのような月が見下ろしている。
たしかに、急を告げるシャーヒーンの声を捉えたのだ。目覚める様子のないリーンをそのままにし、サクルは“砂漠の舟”を操り外に出てきた。
だが、四方を見渡しても、白鷹の姿は見当たらない。
かなりの距離を歩き回ったが、白き羽の一片すら見つけることができなかった。
(これはどういうことだ? まさか……罠?)
オアシスにひとり残したリーンが気にかかる。急ぎ引き返そうとしたとき、サクルは視界に違和感を覚えた。
砂丘の頂上に黒い物体が見える。
シャーヒーンであるならそれは白い影であるはずだ。
“砂漠の舟”を下り、その場を動かぬように命じた。サクルは細身の片刃刀シャムシールを抜き、警戒心を露わにして黒い物体に近づいていく。
その姿がしっかりと目に入ったとき、サクルは驚きの声を上げていた。