砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
シャーヒーンの連絡は、スワイドが悪魔の力を借りて流砂から逃げ出したこと。その悪魔が罪人の死体を地獄に運ぶドゥルジのひとりであること。狙いがリーンとサクルの両方であろう、ということも……。


しかし、このままアミーンを放置すれば、数時間後に昇る朝日は彼の死体に降り注ぐことになる。


(少しなら、あの結界で持ちこたえるだろう。いや、リーンが私を待つ限り、誰にも害することなどできない)


リーンはサクルのことを全身全霊で愛している。

王の帰還を黙って待ち続けるはずだ。



『ムハッラム、アル=ムハッラム、サファル、ラビーウ・ル=アウワル……』 


サクルはシャムシールを腰の鞘に戻し、呪文を唱え始める。

片手をアミーンの身体の上に翳し、その瞬間、サクルの黄金の髪が光を強めて炎のように揺らめいた。


『……ラビーウッ=サーニー、ジュマーダ・ル=ウーラー、ジュマーダ・ル=アーヒラ』


唱えるごとにアミーンの周囲の砂が黒く染まっていく。

地中から水が湧き出してきて、見る間にアミーンの身体を包み始めた。熱の籠もった身体から白い煙が立ち上がり、焼けた石に水をかけるような音が辺りに広がる。


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