砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
『ラジャブ、シャアバーン、ラマダーン……』


水球の中に囚われたようなアミーンの身体が宙に浮かんだ。

そして、砂漠の静寂を破り、より一層大きな呪文の声が響き渡った。


『シャッワール、ズ・ル=カァダ……ズ・ル=ヒッジャ!!』


しだいに水球の中のアミーンがもがき始める。

首を押さえ、息苦しいような素振りを見せるようになり……。


次の瞬間、水球ははじけ飛びアミーンは砂の上に落下していた。

アミーンは上半身を起こし、荒い息を整えるようにしながら、ゲホゲホと咳込んでいる。


「どうだ、アミーン。充分な水に満たされる心地は?」

「……お、溺れるかと、思いました……」

「体内からすべての水分を失い、枯れ木のようになって朽ち果てるのと、どちらがよい?」


アミーンは慌てて足を揃えて座り直し、サクルに向かって平伏した。


「水のありがたみを改めて知りました……心からお礼申し上げます。……あの、ところで、正妃様は?」

「オアシスに残してきた。これからすぐに戻らねばなるまい。ところで、シャーヒーンは命に別状はないのだな?」


月長石から、敵の攻撃に不覚を取り、シャーヒーンが報告に飛んで来られなくなったことを知った。


< 95 / 134 >

この作品をシェア

pagetop