①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
車を走らせること約1時間。怜二は、西新宿のとある路地に遠慮しがちに佇む小振りのビルの前で車を停めた。なんとも年季の入ったビルだった。
「ここだな」
「そう、ここの5階に事務所があるよ」
「行くか」
特に会話もないまま建物の中に入り、階段を上がっていく。ところどころ黒ずみの目立つ少々埃っぽい屋内からは、憂鬱な雨の日のような匂いが漂っていた。外の看板に「5F該当なし」とあった。その他の階には、小さな保険関係の事務所や不動産屋などの物件が入っているようだが、この建物から察するに、繁盛している様は想像できない。
故障しているエレベーターを素通りし、私達は階段をゆっくり上がっていく。ビルとは思えない窮屈さで、安い賃貸アパートのような奥行きだと感じた。こんなところに事務所を構えて、しかも一人で。それを職にできるのだろうか。いささか疑問だった。
5階のフロアにたどり着いたところで、3人揃って足を止めた。
――踊り場に、殺風景な扉が一つ、重々しく口を閉じている。
「じゃあ、柚子からうまく紹介してもらえるか?」
「わかった」
柚子が頷くと扉を数回ノックし、「宮本柚子です、お話があるのですが」と扉に向かって声を張り上げる。
数秒の沈黙の後、くぐもった声が這うように扉から伝導してきた。
「……構いません。入ってもいいです」
穏やかなような、無気力なような。そんな体温のない声が私達の耳に届く。
「失礼します」
柚子がドアノブを捻り、開く。
――なぜだろうか。空気の質が、少し変わった気がした。
ここにきて、不意に気になる。
この先にいる人は、『どんな』人なんだろう。
開かれた扉の先に目を向け、私は何かに吸い込まれるかのように足を踏み出したのだった――。
「ここだな」
「そう、ここの5階に事務所があるよ」
「行くか」
特に会話もないまま建物の中に入り、階段を上がっていく。ところどころ黒ずみの目立つ少々埃っぽい屋内からは、憂鬱な雨の日のような匂いが漂っていた。外の看板に「5F該当なし」とあった。その他の階には、小さな保険関係の事務所や不動産屋などの物件が入っているようだが、この建物から察するに、繁盛している様は想像できない。
故障しているエレベーターを素通りし、私達は階段をゆっくり上がっていく。ビルとは思えない窮屈さで、安い賃貸アパートのような奥行きだと感じた。こんなところに事務所を構えて、しかも一人で。それを職にできるのだろうか。いささか疑問だった。
5階のフロアにたどり着いたところで、3人揃って足を止めた。
――踊り場に、殺風景な扉が一つ、重々しく口を閉じている。
「じゃあ、柚子からうまく紹介してもらえるか?」
「わかった」
柚子が頷くと扉を数回ノックし、「宮本柚子です、お話があるのですが」と扉に向かって声を張り上げる。
数秒の沈黙の後、くぐもった声が這うように扉から伝導してきた。
「……構いません。入ってもいいです」
穏やかなような、無気力なような。そんな体温のない声が私達の耳に届く。
「失礼します」
柚子がドアノブを捻り、開く。
――なぜだろうか。空気の質が、少し変わった気がした。
ここにきて、不意に気になる。
この先にいる人は、『どんな』人なんだろう。
開かれた扉の先に目を向け、私は何かに吸い込まれるかのように足を踏み出したのだった――。