①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
「……失礼ですが、本当に大丈夫なんでしょうね?」
怜二が苦笑いしながら灰川さんに尋ねる。
その苦笑に応えるように、彼は微笑する。
「あー、現段階ではなんとも言えません。ですが、何件か仕事をこなしてきて、それなりの自信は獲得しました。僕のやり方は通用するんです。僕が知っています」
「あの、本当に危険なモノかもしれないんです。……生半可でしたら、受けないほうがいいかと思います」
私は、思わず口に出してしまう。安田さんを始めとする高名な霊媒師達が揃って浮かべた絶望の表情が、半ばトラウマのようになっているのだろうか。
「でしょうね、好奇心とは言いません。これは探究心です。つまり本気です。しかし、どうやら頼りなく見えているようです。依頼を撤回しますか?」
私は、もはやそうしたほうが良いように思えてきたのだが、私を遮り、怜二が答えた。
「……いや、実は他の霊媒師は皆この依頼から逃げてしまっていて、他に当てがないんです。……お願いします」
「わかりました、やってみます」
………。
でも。
いや、気のせいなのだろうか。
しかし、確かめなくては最悪、この人の命に関わることかもしれない。
「あの、ひとつ、質問してもいいですか」
「……瑞町さん、でしたね。なんですか」
「あなたには、その、霊感っていうかそういうものが――ありますか? ……別に、何も感じないわけじゃないんです。ただ、その、違う……っていうか……」
「霊感ですか? 無いですね」
『え?』
私達全員の口からおもわず抜けた声が漏れてしまった。
無い、……って……?
「――それより、事件の詳細をお聞かせ願いたいんですが」
それがなんでもないことであるかのように、彼はそう続ける。引きつった表情を浮かべながら怜二が説明を始めるが、私と柚子は唖然としたままだ。
――大丈夫なのだろうか? いや、駄目なんじゃないだろうか……?
印象や発言と、聞いていた彼の経歴との食い違いが、私の頭を混乱させる。
――霊感が、無い?
でも、ならどうして?
それに、この人に会った時に感じた、吸い寄せられるかのような、変な感覚。あれもなんだったんだろうか。
わからない。
わかるのは、どうなってしまうのか、誰にも予想すらできないということだけだった。