①憑き物落とし~『怨炎繋系』~

『記憶』

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 ――私の実家は、富山の山荘にある。しかし、実際に育ったのは埼玉で、家には今の母と、昔からの父。その、『今の母』に特に憎しみを抱いているわけではないが、3回に渡り妻を入れ替えてきた父にはほとほと嫌気が差している。

 私の本当の地元には、一度だけ訪れたことがある。母の墓参りをするために、中学2年生の時に初めて富山に足を伸ばした。父は母の死以来、一度もここを訪れようとは思わなかったようで、私も来るのは初めてだった。

 もはや単なる苔の塊にすら見える墓標を、丁寧に布で拭い、水をかけた。花と線香を添えると、辺りを見渡した。……田舎だなぁ、と思い切り息を吸い込む。透き通った水のように、冷えた空気が肺に入り込む。

「……会いにくるの、遅くなっちゃったね」

 手を合わせ、俯きながらぼそりと呟いた。
 母は、全身を火に炙られて死んだ。それこそ炭のようになるまでもがきながらだ。父に伏せられていた事実を、私は14歳になった昨日、祖母から打ち明けられた。



「――私が、お母さんを殺したのかな。……でも、感謝、しているんだよ」


  母は当時私を身ごもっており、出産予定日はとっくに過ぎ去っていたそうだ。ギリギリまで妊娠の事実さえ拒絶していた母は、病院にも通わずにいた。そうまで して、私を否定したかったのだろう。そんな寒い冬の日。除夜の鐘が響く中、私はこの世に生を受けようと、母の胎盤を叩いた。母が置かれている状況を知らず に。

 その日、台所で調理をしていた母は、突然の陣痛に倒れてしまう。あまりの激痛、目眩、嘔吐。立ち上がることもできない程の症状。父は何も告 げずに家を出てからすでに3日。病院に連絡してくれる人は誰もいなかった。更にコンロから非情の追い討ち。火の手が上がった。

煙を立ち上らせ、火がアパー トを包む頃、パチンコに行っていた父と近くに住んでいた祖母が駆けつけた。消防作業が進む中、祖母は母の声を聞いたのだという。




 ――聞こえるはずのない声を。


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