①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
『媒体』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。
高速道路を降りて一般道を進むうちに、みるみる人気がなくなっていくのがよくわかる。窓にゴツゴツと、大きな雨粒が矢のように突き刺さっている。視界の悪い林道を通りながら、幾度も蛇行し、点々と続く外灯の頼りない明かりにそって進んでいく。
「行動理由が存在理由。それがなくなれば、留まることができなくなる」。灰川さんは私にあの黒い女への対処方法を話してくれた。
マンションで私が覚醒し、みた夢の内容をそのまま灰川さんに伝えると、彼は一言「繋がりはじめたな」と呟いた。そしておもむろに私のベッドの下に手を伸ばした。
「この木箱に見覚えは?」
彼がベッドの下から、あの女のいた場所から取り出したのは白木の、小さな箱だった。免許証がやっと入るくらいの、長方形の箱。年季が入っているのか、汚れの目立つそれは、異様に重く私の手にのしかかった。金属か何かでもはいっているのだろうか?
「瑞町さんが開けてください」
「……は、はい」
私はゆっくりと蓋を外し中を開ける。気のせいか、その瞬間に陽炎のような歪みが見えた気がした。
「これは……なんなんだ?」
玲二が不安気に中身を覗きこむ。
中には、正体不明の黒い塊が二つ入っていた。小さな、塊。二つあるが、破損して割れたのだろうか? 歪でそれもわからない。恐ろしくて触る気になれない、真っ黒な、なにか。表面は少し凸凹で、厭な光沢があるもの、人の皮膚のような質感を感じさせる。
「なんですか……これ」
「瑞町さんにわからないのなら、わかりません」
灰川さんはさらりと言いながら、指を下唇に添える。
「……が、それとなく察しはつきます」
「どういうことですか?」
「これは『媒体』と言って、あの霊がここに留まる為に必要な因果の起源を象徴するものなんです。奴のルーツと言い換えてもいい。この黒いなにかは、間違いなく今回の事件の鍵になる」
「『媒体』……。それで、灰川さんなりの見当はついているんですね?」
「ええ、しかし、憶測の域を出ない。やはり瑞町さん自身との因果関係を知る必要がある。先ほど話して頂いた、実母の死に際の夢。やはり無関係とは考えにくい」
彼は話しながら私への視線を切り、再びあのベッドの下へと移す。振りむきこちらを見るとそのまま言った。
――「今から瑞町さんの実家へ向かいます」。