①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
「わ、わかった。灰川さんも気をつけてな」

「まぁ……もし、なにか非常事態が起きたら連絡してください。引き返します」

「わかりました……」 


  心配だが、これが彼の判断ならば、従うしかないだろう。灰川さんのやり方は『調査』が主軸となっている。彼個人に特別な法力のようなものはない。あの黒い 女と対峙するその時までに、集めなくてはならない真実があるのだ。それが揃っていなければ打ち勝つことができない。私は死ぬ。いや、私だけ……じゃない。 恐らく敵視している灰川さんも。もしかしたら玲二も柚子も……?

 い、いやだ。それだけは絶対に――。




「おい、いくぞ、夕浬。……どうした?」


「玲二……本当に、本当に……ごめんね……」


 玲二は震える私の頭に、ポン、と優しく手をおく。


「今更気にするなって! 俺は大丈夫だよ、やられたりしないし絶対にお前を離さない。二人でまたいつもの日常に戻るんだ」

「玲二……。うん……そうだね、ありがとう」


 心の堰を越えて溢れ出そうになる感情と嗚咽を、ギリギリのところで飲み込む。

 私は死の恐怖に今にも潰されそうで。

 大切な人を危険にさらしているこの状況に葛藤していて。

 灰川さんの様に、とても平静を保ってはいられない。そんな不安定な今でも、やらなきゃいけないことは常に立ち塞がっている。


 私は玄関まで進み、呼び鈴を鳴らす。しばらくすると奥からゆっくりと足音が聞こえてくる。見覚えのあるシルエットが、すりガラスの向こう側に映る。


「おやまぁ~、夕浬ちゃん! こんな遠くまでよくきてくれたねぇ……」


「お祖母ちゃん、急にごめんね……」


「急に電話あったから驚いちゃったけどねえ! いいんだよ、寒いだろう、さあ入んな……。――そちらは?」


「はじめまして、岡田玲二です。その、夕浬さんと……」


「あら! まさか婚約者かい? こいつはめでたいねぇ、そうとわかっていればもっと準備したのに――」


「あの、違うの、お祖母ちゃん、いや、違わないんだけど……その、今はいろんな事情があって――」



「まぁ……とにかく中に入んなさいな」





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