①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
俺は気が触れたように叫びながら、無我夢中で夕浬から黒いモノを引き剥がす。
「夕浬! ハァ……夕浬! 夕浬! 大丈夫か! しっかりしろ!」
「……ア…ア…ア」
――あまりにも非道い、無残な姿がそこにあった。
夕浬は、岸に打ち上げられた魚のようにビクビクと痙攣しながら白目を向いていた。顔面から肩、上半身の殆どの衣服が焼け焦げ、体には黒いアザができてい た。
普通の火傷なんかじゃないと、すぐに理解できた。
露出する頭皮が、硫酸に灼かれたようにただれている。そして、このアザからは、アイツと同じ臭いがす る。
「ろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ」
この恐怖を前に、今にも霧散しそうな頼りない敵意を、無我夢中で奴に向ける。
……絶対に、許さない。
それだけは、絶対にだめだ。
夕浬をお前には渡すことだけは、許さない。
無理なことも、無謀なことも、理解している。
俺なんかにこんな途方も無い化け物をどうにかできるわけがない。
ヒトとしての矜持など切り捨てて、今すぐにでも逃げ出せと、本能が俺に訴えてくる。
でも。
それでも。
――俺は、夕浬が好きだから。
今、こいつの為に全部を投げ出さずにはいられない。
俺は喉から血飛沫を飛ばしながら、――叫ぶ。ただ、叫ぶ。
そうして体の硬直を取ると、そのまま一直線にアイツに突っ込んでいく。
砕け散る自分が容易に想像できた。
――夕浬、さようなら――……。
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