①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
『オハライ』
怜二の唾が喉を通り抜ける音が、私の耳に届いた。
「笑えないね」
「……うん」
「それが昨日のこと?」
「でも、もっと前からこういうのはよくあって……」
「なんでもっと早くから言わなかったんだよ」
「だって、怜二に嫌われちゃうかなって思って」
「夕浬、今すぐにでもお寺とか、そういう所でお祓い受けてみよう」
「え、でも3限目の授業は」
「心理学だろ? あんなのは関係ないよ、それよりこっちだ」
金縛りにあったり、道端で『変なモノ』を見たり。そんなことは今まで何度もあった。
しかし、その時の友人は誰も信じてくれなかったし、目に見えて気持ち悪く思う人もいた。それでも、事態が事態なだけに吐き出さずにはいられなかった。昨日の様子だと次には私がどうなるか考えただけでも震えてしまう。
怜二が理解してくれる人で、素直に嬉しかった。
「……ほら、近くに厄除けとかお祓いでちょっと有名な寺があるだろ?」
「ああ、環流寺! あそこ前に都内の廃墟ビルのお払い成功したとかで話題になってたね」
「あんまり距離もないし、そこでお願いしてみよう」
私は、都内の賃貸マンションで一人暮らしをしている。見た目がシックで好みだったので、少し背伸びをして選んだ住まいだった。母からの仕送りと週四日のバイトでなんとか切り盛りしているわけで、いますぐに場所を移すなんてことはできない。大学もあと二年も通い続けなければならない。一刻も早く解決してしまいたい。
――あんなのは、もう二度とごめんだ。
私は、怜二の車に乗り、シートベルトをつける。怜二は神妙な面持ちで、黒染めしたばかりの、無造作な髪を少し掻くと、キーを回しエンジンをかけた。