①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
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「――ろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ」
 
 飛びかかった俺を、奴が突き飛ばす。俺は壁に背中を打ち付ける。もう、なにがなんだかわからなくなっている自分と、なにがなんでも夕浬を守り通す、という自分がいる。

 動揺と混乱の中に、確かに揺るがない決意があった。


「ここから消えろ! ……消えないなら、殺してやる!」


  俺は、友江さんの家の台所から拝借してきた果物ナイフを取り出し、奴に突きつける。

 ――とんだお笑い種だろう……。

 こんなもの、コイツに通じるわけがないんだ。それでも、俺は内からこみ上げる衝動のままに、再度黒い化け物の懐に飛び込んでいく。

そのまま奴の腹部に、勢い良くナイフを突き立てた。



「ろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろっろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ」


 ナイフは踊るように折れ曲がり、彼方へと弾き飛ばされる。

 しかし、奴の腹部の刺し傷からは、原油のようなドロドロとした液体が吹き出し、掠れた声を上げながらのたうち回っている。

 何が起きているんだ? 効いている? 
 あんなナイフの一刺しが? 

 『「対抗しうる存在というのは、その霊の『存在理由』に起因します。岡田さんの持つその強い感情が今回の相手に当てはまるのなら、自然に事象が導くはずです」』

 あいつの言葉が、頭の中に浮上する。今の俺の行動理由が……この化け物の対になるものだというのか……?

 さっきの無我の激情が、そのまま奴にとっての理解不能な異端だったのか……?


 しかし、それは――。

 あまりにも……。


 俺は床に寝転がる無残な姿へと変わり果てた夕浬を見た。まだ息こそあるが、瀕死の重症なのは疑いようもない。

 俺はきつく歯を噛み締め、もがき苦しむ化け物を見た。


 ――コイツは夕浬の母親なんだろ!?
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