①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
……わかってる。
もうそんな人間としての理屈が通じないことくらい。
それでも、こんな悲劇を招いた全ての因果に、かつてないほどの怒りがこみ上げる。
どんなことがあってもどんなに苦しくても、道理が歪曲している。
不条理だ!
絶対におかしい!
そんな憤怒が、無意識のうちに俺を叫ばせていた。言葉にならない咆哮をあげ、訴える。
「お前は……本当に母親なのかよ!!」
顔の無い黒い化け物は、苦しむのをやめてこちらを向く。
「それでも……それでも本当にお前は夕浬の母親かよ!! 糞野郎が!!」
目を見開いて叫んだ俺の視界が、一瞬にして閉ざされた。
何事かと飛び退くと、すぐ目の前に化け物の焼けただれて原形のない顔面があった。
その顔がニタリと歪んだところで、俺の景色が上下反転した。
――感覚的に理解した。首を、『拗られた』と。
糸の切れた人形のように、力なく地面に倒れこむと、不思議とまだ感覚の残っている肉体が燃えているのが見えた。
否。
アイツに、焼かれていた。
気が狂いそう な苦痛が全身を蝕む。俺は感覚が残っていることを憎悪した。溶岩が全身の血管を駆け巡っているかのようだった。こんなもの、正常な精神で耐えられるもので はない。精神崩壊は必然だった。俺は意味もわからずケラケラと笑いながら自分が燃えていくのを、破裂した眼球で眺めている。
熱い。熱い!
熱い。熱い。熱い。
そして、どうしようもなく――途方もなく、凍てついている。
――生きながらにして、すでに地獄を体験した事になるだろう。
全身を奴の業火が蹂躙し尽くすまで、俺は死ぬことすらできなかった。