①憑き物落とし~『怨炎繋系』~

『愛憎表裏』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。


 僕は取り出した『媒体』を握りつぶした。


「アア嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ」

 もう、人と呼ぶのことのできないモノへと成り果ててしまった『塊』が、肉片をまき散らしながらこの場離れようともがく。

 醜く、節足動物のように手足を動かしながら、苦悶の表情を浮かべている。


「…… 彼女は、生まれてまもなく焼死しました。しかし、母体と繋がっていた為、『生きたい』という魂の渇望が彼女をまだ息のあったあなたの中に入り込ませたので す。その時、彼女は母の体を通り、臍の緒を通り、死を前にした苦痛や悲しみといった負の感情に当てられてしまった。これがこの事件の発端です」


「……私は、それじゃあ、自分の『姉』にずっと命を付け狙われていたというの?」


「……僕達の常識は通じませんがね。なにせ、『それ』は瑞町さんの自我が芽生えるよりも更に以前からあなたの内部に寄生し、あなたと同様に成長してきたのです。ずっと、『負』の感情を吸収しながら、ね」




 最初に想像を絶する母の焼死という心の痛みを。


 
 そして、瑞町が幼い頃からずっと抱え込んでいた心の傷を――。

 
 
 この化物はその身に取り込みながら膨張していったのだろう。

 

 ……でも、その行為そのものは……。




「……この『負』の感情を取り込むという行為は、瑞町さん、あなたの精神を守るために彼女がしたことだと、僕は考えています。そして、母、箕輪さんの死に際の怨恨の念を取り込んだことも、死後の箕輪さんを悪しきものに変えないために」


「じゃあ……この『姉』は私はたちのために犠牲になっただけ……?」


「……20 年間、あなたと箕輪さんのためにずっと尽くしてきた彼女は、ある日、もう自分は必要ないと気づく。あなたには恋人ができ、友人に囲まれ、陰鬱な家族から離 れて幸せな日常を送り始めた。その時、彼女はあなたという器の中から外へと飛び出した。……これが瑞町さんに彼女に関する記憶が抜け落ちていた理由でしょ う」



 推測が、やがて事実を紡ぎだし、多くの因果が、今、現在を織り成している。


 僕にできることは存在理由を理解し、それを対象から『掃う』こと で解決するということ。


 僕のこのやり方が今回のケースで通じないのは、この化物が『存在理由を奪われたがために現れた』例外中の例外であるからなのだ。


「悪意の塊。それしか持っていない彼女は、自然とその殺戮対象を瑞町さんと、その周囲の人物に設定してしまう。――そういう、破壊のプログラムしかされていないから。……これが今回の事件の全貌です」
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