①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
瑞町は、呆然としながらももがき苦しむ化物に、哀しげな眼差しを送っている。
やがて、決壊したかのように涙を滴らせる。
僕では、とてもその胸中を理解することは敵わない。
想像を遥かにこえて、悲しみ、愛、憎悪。それら多くの感情が渦を巻いて奔流していることだろう。
「私は……私はどうすれば、いいの……? どうすれば、この哀れな姉を救う事ができるの? 私はこの姉を、憎くて憎くて仕方ない。でも、それ以上に、そんな自分が憎くてたまらない! どうにもできないの!」
「今 の彼女の行動理由とは『妹を取り込む』こと。しかし……この化物は、あなたの双子の姉ですが、元はひとつの存在だったものです。この『事実』を瑞町さんが 理解した今、もう自然な形で瑞町さんを取り込み、彼女が主軸のひとつの存在になることは不可能となってしまった。じきにこの化物は消滅します」
「もう、なにも……できることはないの?」
「僕にはありません。この消滅はあくまでも彼女の中でのみ完結する事象なので、僕の力では何も届かない。しかし、瑞町さん、あなたにはまだやれることがある」
「……できることはなんでも、します」
「逆に、この化物をあなたが『取り込んで』ください。事実を理解した今、もともと繋がっていたあなたにはそれができるはずです」
「取り込む……? そうしたら、姉と、私はどうなってしまうの……?」
「ここまで弱まったこの化物は、あなたの中で増長することはないでしょう。意識こそないですが、無我のひとつとして、静かにあなたの中で存在できるかもしれません」
「……わかりました。――不思議と、その方法はわかります……」
瑞町は、涙を拭くと、まっすぐに蹲る肉塊を見下ろし、ゆっくりと近づいた。
――この先は、姉妹で解決することだ。
僕は、静かに病室を後にした。
廊下を通り抜ける風が、髪をゆらす。
――本件で僕にできることはここまでだろう。
この哀しい姉妹の愛憎の物語はここでひとまずの幕を下ろす。
奥底に隠された真実に辿り着くまでに、多くの犠牲を払ってしまった。このことを、忘れてはいけない。
願わくば、せめてごく普通の、ありふれた安息が彼女たちに訪れることを祈るとしよう。
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