①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
「環流寺住職の安田弥太郎と申します」
体格がよく、太っているというよりはがっしりしている。眼鏡をかけたなんとも貫禄のあるお坊さんだった。線香のほのかな香りと、紫の衣を身に纏っている。
おもわず私は、その雰囲気だけで救われたような気分になってしまう。
「して、どのようなご用件で? ……だいたいは察しがついておりますが」
「はい、その、お祓いを頼みたくて」
怜二がなんとも切り出しにくそうにそう言うと、安田さんは静かにうなずきはじめる。
「……………………うん、うん」
「はい?」
「そちらのお嬢さん、だいぶ絞り取られていますなぁ……。あんまり長く放っておくと危ないかもしれませんね」
「え……あ、はいっ、そうなんです。 実は私のマンションで……」
「まぁ、どうぞお座りになってください」
図星を突かれ、私はおもわず体を起こしてしまっていた。
「すみません」
「……では、私への依頼は『仏滅』でよろしいですね?」
「ぶつめつ?」
「ええ、人に仇なすモノを祓い、滅し、浄土へ導く。それが仏滅です」
「はい、どうかよろしくお願いします……」
「御代などはお気持ちの程で結構です。お金の為にやっている仕事ではありませんので」
「あ、いえ、そんな。ありがとうございます」
「……では、今から少しそのお部屋を見せていただいてもよろしいですかな?」
「はい」
「少々支度がありますので、お待ちください」
笑顔で去る安田さんからは、安堵という名の光が凛々と差し込んでいる。私は胸を撫で下ろすと、内につかていた不安が少しずつ解けていくのを感じた。