①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
『途方も無い化物』
翌日、柚子の家に泊まっていた私に安田さんからお詫びの連絡が入った。
依頼が果たせなかったことで謝るのかと思いきや、彼はもう自分に依頼をしないで欲しいと、息を荒くして懇願していた。
せめてもの配慮として、安田さんが知る限り最上位の僧侶の方に視察に出向いてもらったらしい。
……だが、さらに2日後、その僧侶の人からも、依頼撤回の申し出がだされた。
酷く怯えながら、彼らは私から逃げていった。
――何が、いるというのか。
――何が、私に憑いているというのか。
しかし、なぜだろう。あの黒くて冷たい女の視線に貫かれてから、もう、抗う意志を折られてしまった。確信がある。私はきっと逃げられない。いずれ、そう遠くないうちにまた私の前に現れて、私はアレに塗り潰される。
この柚子の家にいるのも、迷惑になるのかもしれない。
「ユーリちゃーん……。やつれてるよ……。ゴハン、食べよ?」
「うん……。ありがと」
「明後日、私大学休むからさ、一緒にお台場行こうよ! ね!」
「ありがとう、柚子」
「私も彼氏呼ぶからさ、ユーリも怜二先輩呼びなよ」
「うん……」
中学生のような可愛い笑顔。今は柚子のそんな明るさが、私を繋ぎとめてくれているような気がした。
「ん、着信」
「誰から?」
ディスプレイには、『怜二』と表示されていた。
あれから、ほとんど連絡はなかった。……やはり、事態が事態だけに、引いてしまったのだろうか……。無理もないことだった。
「出てみなって」
「え、うん……」
私は恐る恐る通話ボタンに手を伸ばす。
「もしもし――」