愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(21)愛と、迷いと
「ほらほら、そんな強火で煮たら駄目だよ。弱火でじっくり、と。……ジャガイモが煮崩れるからね」
「あ、はい。すみません」
奈那子は慌てて頭を下げる。
「急いで動かないの。台所は狭いんだからね。お腹に包丁やお鍋の取っ手が当たったら大変だよ」
「あ、はい。す……すみません」
太一郎は真剣に謝る奈那子の横顔を見つつ、苦笑いを浮かべた。
「ばあちゃん。風呂場の掃除が終わったぜ。天井のカビも取ったからな」
「ああ、済まないねぇ。じゃ、お茶でも淹れるかね。さあ、ナナちゃんもおいで」
“岩井のばあちゃん”太一郎がそう呼んでいた女性だった。
太一郎が名村産業で汲み取り業務に従事していたとき、周回担当になっていたのが、この岩井ときの家だ。
腕を骨折していた彼女に代わり、太一郎がバケツで水を運んでやったのが個人的付き合いの始まりとなる。
それ以外にも、休日に出向いて買い物を手伝ったり、タンスの置き場を変えたり、大工仕事までした。かつての太一郎からは考えられない働きぶりだ。
その代わりに、ときは太一郎に何度もご飯を食べさせてくれた。
そして何より太一郎が欲しかった、『ありがとう』の言葉をたくさんくれた人だった。
「あ、はい。すみません」
奈那子は慌てて頭を下げる。
「急いで動かないの。台所は狭いんだからね。お腹に包丁やお鍋の取っ手が当たったら大変だよ」
「あ、はい。す……すみません」
太一郎は真剣に謝る奈那子の横顔を見つつ、苦笑いを浮かべた。
「ばあちゃん。風呂場の掃除が終わったぜ。天井のカビも取ったからな」
「ああ、済まないねぇ。じゃ、お茶でも淹れるかね。さあ、ナナちゃんもおいで」
“岩井のばあちゃん”太一郎がそう呼んでいた女性だった。
太一郎が名村産業で汲み取り業務に従事していたとき、周回担当になっていたのが、この岩井ときの家だ。
腕を骨折していた彼女に代わり、太一郎がバケツで水を運んでやったのが個人的付き合いの始まりとなる。
それ以外にも、休日に出向いて買い物を手伝ったり、タンスの置き場を変えたり、大工仕事までした。かつての太一郎からは考えられない働きぶりだ。
その代わりに、ときは太一郎に何度もご飯を食べさせてくれた。
そして何より太一郎が欲しかった、『ありがとう』の言葉をたくさんくれた人だった。