愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
ときの家は平屋建てだ。
台所のガラス戸を開けると四畳半の和室、ガラス戸の向こうの開き戸は六畳の和室となる。ふたつの和室は襖を隔てて繋がっていた。
四畳半の部屋の真ん中に、昔ながらのちゃぶ台があった。手前には小さな食器棚、ガラス戸を挟んで置かれたカラーボックスは電話台だ。
反対の隅には仏壇があり、二十年前に亡くなったときの夫と、五十年前に五歳で亡くなった息子の位牌が祀られていた。
「見た目がでっかいだけで、怖がりだよねぇ、太一ちゃんは。こーんな小さいアブラムシを見ただけで、飛んで逃げたんだよ」
ちゃぶ台を囲んで太一郎が座ると、奈那子がお茶を出してくれた。
ときもそれを啜りながら、八ヶ月前に会った太一郎のことを、奈那子に面白おかしく話して聞かせる。
「タンスを抱えりゃへっぴり腰だし、釘を打たずに手を打っちまうしねぇ~」
「いい加減にしろよ、ばあちゃん。奈那子に余計なこと言うんじゃねぇよ」
「はいはい。こんな可愛い嫁さんがいて、困ってんならさっさとうちに来りゃよかったんだ。ねぇ、ナナちゃん」
奈那子が退院した日、彼女の父・桐生に居所を知られた。
ふたりは夜のうちに荷物を纏め、アパートを出たのだ。しかし、当然のように行く当てはなく……。その夜は近隣のビジネスホテルに泊まった。
翌朝、商店街を通り抜け、駅に向かう太一郎にときが声をかけたのである。
ときはふたりを、親の反対に遭い、駆け落ちしたのだと誤解したようだ。
「子供が産まれたら、きっと嫁さんのご両親も許してくれるよ。それまでうちにおいで。狭いけど、雨露は凌げるさ、ねぇ」
太一郎はときの言葉に甘えたのだった。
台所のガラス戸を開けると四畳半の和室、ガラス戸の向こうの開き戸は六畳の和室となる。ふたつの和室は襖を隔てて繋がっていた。
四畳半の部屋の真ん中に、昔ながらのちゃぶ台があった。手前には小さな食器棚、ガラス戸を挟んで置かれたカラーボックスは電話台だ。
反対の隅には仏壇があり、二十年前に亡くなったときの夫と、五十年前に五歳で亡くなった息子の位牌が祀られていた。
「見た目がでっかいだけで、怖がりだよねぇ、太一ちゃんは。こーんな小さいアブラムシを見ただけで、飛んで逃げたんだよ」
ちゃぶ台を囲んで太一郎が座ると、奈那子がお茶を出してくれた。
ときもそれを啜りながら、八ヶ月前に会った太一郎のことを、奈那子に面白おかしく話して聞かせる。
「タンスを抱えりゃへっぴり腰だし、釘を打たずに手を打っちまうしねぇ~」
「いい加減にしろよ、ばあちゃん。奈那子に余計なこと言うんじゃねぇよ」
「はいはい。こんな可愛い嫁さんがいて、困ってんならさっさとうちに来りゃよかったんだ。ねぇ、ナナちゃん」
奈那子が退院した日、彼女の父・桐生に居所を知られた。
ふたりは夜のうちに荷物を纏め、アパートを出たのだ。しかし、当然のように行く当てはなく……。その夜は近隣のビジネスホテルに泊まった。
翌朝、商店街を通り抜け、駅に向かう太一郎にときが声をかけたのである。
ときはふたりを、親の反対に遭い、駆け落ちしたのだと誤解したようだ。
「子供が産まれたら、きっと嫁さんのご両親も許してくれるよ。それまでうちにおいで。狭いけど、雨露は凌げるさ、ねぇ」
太一郎はときの言葉に甘えたのだった。