愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「だったらお前が家を出て、友達のとこでも行けよ。それか母親に連絡して、出て行くように言ってもらえ」

『あいつ酔ってるの。なんか凄い酔ってて……リビングで飲んでるのよ。リビング通らないと外に出られない。母さんの携帯にかけるんだけど、電源切ってるのか、田舎だから通じないのか……』


耳元で羽音が聞こえる。

熱帯夜の不快感も重なり、太一郎は大袈裟な仕草で虫を払った。


「で、俺が駆けつけたら……今度はお前のヌードでも拝めるわけか?」

『そんな……私、そんなこと』

「茜……ホントにヤバけりゃ俺じゃなくて警察にかけるだろ? こっからお前の家まで一時間近くかかるんだぞ。俺が行くまで、そいつは襲わずに待っててくれるわけか?」

『しんじて……くれないの?』


太一郎の心は揺れた。

女子高生の割にしっかりしていて、生意気な口ばかり聞く。怖いもの知らずで、突拍子もないことばかりする奴だ。

茜を“ガキ”と呼んだが、太一郎もまだ充分に“ガキ”だった。


『太一郎……お願い、見捨てないで』

「もう、勘弁してくれ」

『……たい』


吐き捨てるように言うと、太一郎は電話を切る。

そして振り返ったとき、そこに奈那子が立っていたのだった。


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