愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
太一郎は奈那子を、世間知らずのお嬢様だとばかり考えていた。

だが、何も知らなかったのは太一郎のほうだったのだ。


愛は人を脆くする……弱くも情けなくもするだろう。

だが、信じられないほど強い力も与えてくれる。

奈那子は愛を糧に強くなれる女だった。

信じることも、待つことも、耐えることも、赦すこともできるほど。

そして……別れることもできるほどに。


「わかった。茜のとこに行って来る」


それは心を決めた声だった。


太一郎は奈那子からパッと離れ、背中を見せる。この上、涙まで見られるのはあまりに無様だろう。

だが、奈那子は太一郎の決断を違う意味で捉えたようだ。


「……はい……」


小さく震えた声で、それでもしっかりとうなずいて見せる。


「太一郎さま……今まで本当にありが」

「勘違いすんじゃねぇよ。戻って来るまでに、これ、書いといてくれ」


太一郎がそう言って渡したのは、ズボンのポケットに入れたまま、ずっと持ち歩いていた“婚姻届”だった。


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