愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
新田は頭の傷もさることながら、茜に噛まれた傷からの出血に慌てふためいたらしい。

悪態を吐きながらビルの廊下をうろついていた所を、警備員が見つけて救急車を呼んだと言う。同時に、警察にも通報された。


当初、顔も知らない女との情事の結果で、女は逃げたと言ったらしい。

しかし、警察は数時間前の茜の通報を引き合いに出し、新田は返答に窮する。直後、新田は太一郎の顔を見つけ、短絡的にも罪を押し付けようとしたが、それがそもそもの間違いとなった。

太一郎や茜は一滴も酒を飲んではおらず、ふたりの話のほうが信憑性は高い。

その場合、新田の強姦未遂は明らかだ。しかも警察からは『どうしてそんな場所を噛まれたのか?』と質問され……。

朝になり、酔いの醒めた新田は、『昨夜は酔っていた。実は茜に誘惑されて……』『いや、本当は僕と茜は深い交際があって、単なる痴話喧嘩』など、供述を二転三転させた。


「それだけでも充分怪しいんですが……。実は、警察の身元確認で新田が偽名を名乗っていることがわかったんです」


あの男の本名は渡瀬祐作(わたせゆうさく)と言い、なんと結婚詐欺容疑で取調べを受けた過去が判明したのだ。

起訴には至らなかったものの、現在でも複数の女性から慰謝料を請求されており、裁判中だった。


駆けつけた茜の母・雅美は新田の正体を聞き……茜の支えなしでは立っていられなかったという。


「どうやら結婚の話が出ていたようです。店の名義を新田にする予定だったとか。あの男が自分の娘に何をしたかを知り、泣き崩れてしまわれて。佐伯さんは、元々親孝行なお嬢さんですからね。太一郎様のことは気にされてましたが……」


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