愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
茜もつくづく苦労人だ。

思えば茜が太一郎に関わり始めたのも、母親や弟妹の手が離れたからだった。

周囲の面倒を見ることで自分に存在価値を見出してきた茜なら、今度も頑張るだろう。むしろ、こういった事態のほうが、茜自身は落ち込まずに済むかもしれない。



警察署を出てしばらく歩くと自動販売機があった。

宗はそこで缶コーヒーを二本買う。その横の、ベンチ代わりとも単なるブロックとも言える場所にふたりは腰を下ろし……。

太一郎は礼を言い、一本受け取った。


「俺にはよくわかんねぇけど。もし法律的にどうにかしなきゃならないなら、力になってやってくれよ」

「はい、わかっています。ところで……太一郎様に奥様がいると聞いたんですが?」


いきなり話を振られ、太一郎はコーヒーを吹き出した。


「戸籍上の変化はないようですが。お子さんも産まれる予定だとか……事情を説明願えますか?」


その質問に、奈那子の名前が上がらなかったことに太一郎は驚いた。


どうやら、桐生の私設秘書はそれほど優秀な男ではないらしい。太一郎ですら思い出したのに、向こうは覚えていなかったのだ。そうでなければ一週間以上が過ぎて、卓巳の元に連絡が行かないわけがない。


桐生より先に話さなければ、と思いつつ……。再び奈那子に関わったことを知られるのが怖くて、太一郎は卓巳に連絡が取れずにいた。


「これはいい機会ではないでしょうか? その女性を伴い、藤原に戻られませんか?」


太一郎は宗の言葉に驚き、顔を上げる。


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