愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
すると、宗は随分穏やかな表情で微笑んでいた。
「まだ半年だ。何にもしてねぇのに……藤原に戻ったって」
「実は、九月一杯で私は社長秘書を辞することになりました」
「辞するって……こないだの事件は終わったんだろう? 今月、仕事に復帰したばっかりじゃねぇか」
「日頃の行いの悪さでしょうね。いささか仕事のやり辛い状況でして……。会社にもご迷惑をかけてしまいそうなので、社長の采配でしばらく本社から離れることになったんです」
宗は二年を目処に北海道で働くことになるという。
その瞬間、太一郎は酷く心細い思いに駆られた。自分でも気づかぬうちに、宗を頼り切っていたようだ。
ひとりでは仕事も探せなかった太一郎に、名村産業を紹介してくれたのは宗だった。
卓巳にはプライドが邪魔して頼れない所を、宗になら頭を下げることができた。一見、軟派でいい加減な男に思える。だが、その柔軟さと機転はさすが藤原グループの社長秘書と言うべきだろう。
「社長には確実な味方となるべき親族がおられません。やはり、太一郎様が藤原に戻り、本社に入るべきではないでしょうか? 少なくとも社会人としての常識は、半年前からは想像もできないほど立派になられておられますし……」
宗の言うことはわかる。いつかは藤原に戻り、卓巳の役に立ちたいと思う。
だが……。
「卓巳……さんに会いたいんだ。その……結婚したい女のことで、話がある。明日か、明後日か、俺が出向くから時間と場所を指定してもらえないか? それから……我侭言って悪いんだけど、万里子さんにも同席して欲しいんだ」
覚悟を決めて太一郎は口にした。
「まだ半年だ。何にもしてねぇのに……藤原に戻ったって」
「実は、九月一杯で私は社長秘書を辞することになりました」
「辞するって……こないだの事件は終わったんだろう? 今月、仕事に復帰したばっかりじゃねぇか」
「日頃の行いの悪さでしょうね。いささか仕事のやり辛い状況でして……。会社にもご迷惑をかけてしまいそうなので、社長の采配でしばらく本社から離れることになったんです」
宗は二年を目処に北海道で働くことになるという。
その瞬間、太一郎は酷く心細い思いに駆られた。自分でも気づかぬうちに、宗を頼り切っていたようだ。
ひとりでは仕事も探せなかった太一郎に、名村産業を紹介してくれたのは宗だった。
卓巳にはプライドが邪魔して頼れない所を、宗になら頭を下げることができた。一見、軟派でいい加減な男に思える。だが、その柔軟さと機転はさすが藤原グループの社長秘書と言うべきだろう。
「社長には確実な味方となるべき親族がおられません。やはり、太一郎様が藤原に戻り、本社に入るべきではないでしょうか? 少なくとも社会人としての常識は、半年前からは想像もできないほど立派になられておられますし……」
宗の言うことはわかる。いつかは藤原に戻り、卓巳の役に立ちたいと思う。
だが……。
「卓巳……さんに会いたいんだ。その……結婚したい女のことで、話がある。明日か、明後日か、俺が出向くから時間と場所を指定してもらえないか? それから……我侭言って悪いんだけど、万里子さんにも同席して欲しいんだ」
覚悟を決めて太一郎は口にした。