愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
宗はわずかに驚いた表情を作ったが、すぐに上着の内ポケットから手帳を取り出し、捲り始めた。
「万里子様も同席と言うことでしたら、藤原邸が望ましいと思われます。……明日の夜九時以降でいかがでしょう?」
「ああ、それでいい」
「では、太一郎様も奥様をご同伴ください」
「それは……」
一瞬、宗の態度は芝居で、奈那子をおびき寄せる罠かもしれないと考える。
「明日は俺ひとりで行く。な……彼女は体調が今ひとつなんだ」
「わかりました。では、社長には明日、約束の時間直前にお話することに致します」
「わ、悪りぃ」
どうやら宗は、太一郎の不信と躊躇を感じ取ったらしい。
宗は、茜と連絡が取れるように、と母親の実家を太一郎にも教えようとした。
しかし、太一郎はそれを聞かずに断る。茜との間に友情を築き上げる自信はない。
太一郎は宗にもう一度頭を下げ、茜のことを頼んだ。そして、二度と彼女に会わない決意を固めたのである。
奈那子は太一郎の帰りを待っている。
一刻も早く帰って安心させてやりたい。
宗と別れてすぐ、奈那子に電話をかけるが……。携帯電話は『電源が切れているか、電波の届かない場所に……』と繰り返すだけだった。
「万里子様も同席と言うことでしたら、藤原邸が望ましいと思われます。……明日の夜九時以降でいかがでしょう?」
「ああ、それでいい」
「では、太一郎様も奥様をご同伴ください」
「それは……」
一瞬、宗の態度は芝居で、奈那子をおびき寄せる罠かもしれないと考える。
「明日は俺ひとりで行く。な……彼女は体調が今ひとつなんだ」
「わかりました。では、社長には明日、約束の時間直前にお話することに致します」
「わ、悪りぃ」
どうやら宗は、太一郎の不信と躊躇を感じ取ったらしい。
宗は、茜と連絡が取れるように、と母親の実家を太一郎にも教えようとした。
しかし、太一郎はそれを聞かずに断る。茜との間に友情を築き上げる自信はない。
太一郎は宗にもう一度頭を下げ、茜のことを頼んだ。そして、二度と彼女に会わない決意を固めたのである。
奈那子は太一郎の帰りを待っている。
一刻も早く帰って安心させてやりたい。
宗と別れてすぐ、奈那子に電話をかけるが……。携帯電話は『電源が切れているか、電波の届かない場所に……』と繰り返すだけだった。