愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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「じゃあ……奈那子はソイツに付いて行ったのか?」


太一郎は家に戻るなり、待ち構えていたときからその話を聞いて拳を握り締めた。


「あたしにゃよくわからなかったんだけど……」


そう前置きして、ときは話し始める。

奈那子はその男を『清二さん』と呼んだという。

最初、奈那子は同行を断り、通り過ぎようとしたのだ。だが、清二が降りたのとは反対側のドアが開き、ひとりの女性が降り立った。


「まさか、三十くらいに見える、きつい化粧の女か?」


太一郎の脳裏に浮かんだのは郁美だ。

しかし、「いやぁ、もっと若く見えたよ。ナナちゃんと同じくらいじゃないかね?」と、ときは答える。

さらに、その女と奈那子は面識がなさそうだった、という。



清二は車から一冊の雑誌を取り出し、奈那子に見せた。すると、見る見るうちに奈那子の表情が変わった。


『伊勢崎太一郎くんの正体はこの男だろう? “贖罪の日々”と題して、特集を組んでくれるそうだよ。探せば、彼を法的に訴えたいという女性も出てくるだろうね。彼女は協力してくれるそうだ』


清二はそう言うと、車の向こう側に立つ女性を指差した。

そして、奈那子に言ったのだ。


『君の我がままで、彼の人生を縛るのはどうかな? 彼は人生をやり直そうとしてるんだろう? 交際中の彼女と別れてまで、君に尽くそうとしてるそうじゃないか? それに……子供は実の父親の許で育つほうが幸せだ』



「そう言われたらナナちゃん黙り込んじまって……」


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