愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
だが、男――藤原卓巳は特に慌てる様子も見せず、手にしたスーツの上着で少年のナイフを持った右腕をからめ捕った。


「金が欲しいと言っていたな」


片手で少年を押さえると、もう一方の手で上着の内ポケットに見える財布取り出し、中身を見せる。


「黙って引くなら好きなだけくれてやる。だが……欲を掻いたら失敗すると、鑑別所で学んで来ても構わんぞ」


少年は卓巳から飛び退いた。

そして金を受け取ると、「あ、あのオバサンも、俺らが連れて行こうか? どっかで痛めつけてやっても」そんな提案を口にするが……。


「いや、始末ならこちらでする。貴様らはとっとと失せろ」


卓巳の冷酷な台詞に、少年らは青ざめつつ走って逃げた。

可能なら、太一郎も一緒に逃げ出したい気分だ。

思ったとおり、卓巳はつかつかと太一郎の前に歩み寄り――。


「この馬鹿野郎! 意地を張るなと言っただろうがっ!」


路地に派手な音がして、思い切り横っ面を張り飛ばされたのだった。


< 139 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop