愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「怒ってないのか?」

「怒ってないように見えるか?」

「……いや」


少年たちに蹴られた傷より、卓巳に殴られた頬が痛い。卓巳の怒りを察するに、このまま見過ごしてはもらえないだろう。


太一郎は思い切ってそのまま座り込み、頭を下げた。

ここ数ヶ月の土下座三昧を考えると……今さら頭のひとつやふたつ、地面に擦り付けることくらい訳無いことだ。


「頼む! 俺はなんとしても奈那子に子供を産ませてやりたいんだ。奈那子を守りたい。いや、守らなきゃならないんだよ。藤原には金輪際迷惑はかけません。だから……頼みます。奈那子を取り戻す、力を貸してください」

「彼女が、お前より泉沢の次男を選んだ可能性はないのか? この分なら、子供の父親は奴だろう?」

「それは絶対にない! 岩井のばあちゃんが聞いてたんだ。俺の……週刊誌の記事を持ち出して、訴える女がいると言って奈那子を連れて行った。プロポーズしたら、あいつは……俺と結婚するって答えたんだ。嬉しそうにしてた、それなのに……」


喉の奥が詰まるような感覚に、太一郎は唇を噛んだ。

地面に正座し、膝の上で拳を握り締める。自分の不甲斐なさに、涙がこぼれそうだ。


そんな太一郎の横に卓巳はしゃがみ込んだ。

そして太一郎の頭をポンポンと叩き、


「――坊主頭が随分伸びたな。なあ、太一郎……一年前まで私たちは、川を挟んで向こう岸にいた。だが、万里子が橋を架けてくれたんだ。いい加減、様子見はやめよう。少しは従兄を信用しろ」


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