愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
このとき、太一郎はようやく知った。
卓巳の中で太一郎は、卓巳自身と同じ岸に立つ人間なったのだ、と。
卓巳が差し出した手を、太一郎は素直に握る。
それは、ぎこちなく車の窓越しに交わした握手とは違った。その力強さと安心感に、太一郎は子供のように甘えたくなる。
だが、弱気になる従弟の気配を察したのか、卓巳の言葉は厳しくなった。
「バックアップはしてやる。だが、戦うのはお前だ。惚れた女を守るのに、選手交代じゃ洒落にならん」
「わ、わかってるさ。代わってくれなんて言ってねぇだろ」
「だったらいい。だが……あの女はどうにかしてやろう」
そう言って卓巳が指し示したのは郁美だった。
様子を窺うようにこちらをみつめていた彼女だが、卓巳の視線を受け、慌てて車に乗ろうとする。
一方太一郎は、郁美の存在をすっかり忘れていた。
だが、今の話をすべて聞かれたとしたら……この女のことだ。きっとまた、ろくでもないことを思いつくに決まっている。
とはいえ、太一郎には具体的な対抗手段が思いつかない。
今回の件もそうだ。警察に訴えたくても証拠がない。逆に、ロードスターの中で太一郎に襲われたと言われたら面倒なことになる。
逃げようとする郁美に、ほぞを噛む思いの太一郎だったが……。
そのとき、卓巳が動いた。
卓巳の中で太一郎は、卓巳自身と同じ岸に立つ人間なったのだ、と。
卓巳が差し出した手を、太一郎は素直に握る。
それは、ぎこちなく車の窓越しに交わした握手とは違った。その力強さと安心感に、太一郎は子供のように甘えたくなる。
だが、弱気になる従弟の気配を察したのか、卓巳の言葉は厳しくなった。
「バックアップはしてやる。だが、戦うのはお前だ。惚れた女を守るのに、選手交代じゃ洒落にならん」
「わ、わかってるさ。代わってくれなんて言ってねぇだろ」
「だったらいい。だが……あの女はどうにかしてやろう」
そう言って卓巳が指し示したのは郁美だった。
様子を窺うようにこちらをみつめていた彼女だが、卓巳の視線を受け、慌てて車に乗ろうとする。
一方太一郎は、郁美の存在をすっかり忘れていた。
だが、今の話をすべて聞かれたとしたら……この女のことだ。きっとまた、ろくでもないことを思いつくに決まっている。
とはいえ、太一郎には具体的な対抗手段が思いつかない。
今回の件もそうだ。警察に訴えたくても証拠がない。逆に、ロードスターの中で太一郎に襲われたと言われたら面倒なことになる。
逃げようとする郁美に、ほぞを噛む思いの太一郎だったが……。
そのとき、卓巳が動いた。