愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「お前……名村郁美を罠に嵌めたのか?」
「人聞きの悪いことを言うな。善良で勤勉な老人を、魔女の手から救うだけだ。それも、あの女が悔い改めるチャンスは残してある。あとは宗がやるだろう」
――悔い改めるとは微塵も思っていないくせに。
そんな言葉を太一郎は飲み込んだ。
卓巳は、「通りに車を待たせてある。お前も来い」そう言ってさっさと歩き始める。
だが、不意に立ち止まり白い紙切れを拾い上げた。
太一郎はハッとしてポケットを探るが、ときから手渡された婚姻届がどこにもない。
「太一郎、これは桐生奈那子のサインか?」
「え? ああ……言ったろう。奈那子は俺と結婚するつもりだったって」
「そうか――。ひとつ確認しておく。お前も本気なんだな? 過去の贖罪や子供のための結婚ではなく、真剣に、桐生奈那子を生涯の伴侶としたいんだな?」
卓巳の声は厳しく、重々しい。
一瞬、ほんの一瞬だが、太一郎の胸に茜の姿が浮かんだ。
違う生き方をして、違う出逢いであったなら……始まったかもしれない“恋”だった。
「人聞きの悪いことを言うな。善良で勤勉な老人を、魔女の手から救うだけだ。それも、あの女が悔い改めるチャンスは残してある。あとは宗がやるだろう」
――悔い改めるとは微塵も思っていないくせに。
そんな言葉を太一郎は飲み込んだ。
卓巳は、「通りに車を待たせてある。お前も来い」そう言ってさっさと歩き始める。
だが、不意に立ち止まり白い紙切れを拾い上げた。
太一郎はハッとしてポケットを探るが、ときから手渡された婚姻届がどこにもない。
「太一郎、これは桐生奈那子のサインか?」
「え? ああ……言ったろう。奈那子は俺と結婚するつもりだったって」
「そうか――。ひとつ確認しておく。お前も本気なんだな? 過去の贖罪や子供のための結婚ではなく、真剣に、桐生奈那子を生涯の伴侶としたいんだな?」
卓巳の声は厳しく、重々しい。
一瞬、ほんの一瞬だが、太一郎の胸に茜の姿が浮かんだ。
違う生き方をして、違う出逢いであったなら……始まったかもしれない“恋”だった。