愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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それは卓巳の発案だ。

卓巳はただちに連絡し、奈那子の戸籍が移動されてないことを確認した。そして深夜にも関わらず、奈那子の本籍がある役所に飛び込み、書類を揃えて太一郎と奈那子の婚姻を正式に受理させたのだ。

二十四時間・年中無休で提出可能な婚姻届ならではの手段である。

勝利を確信して、呑気に朝を待った清二の負けとも言えよう。

同時に、太一郎は夫の権限で、妻である奈那子が連れ去られたと訴え出た。

奈那子を脅して婚姻届を書かせ、提出する可能性がある、と言って警察を動かしたのだ。

泉沢事務所に所属し清二に従っている社員は、『有印私文書偽造、同行使』の容疑で現行犯逮捕されたのだった。



この連絡を受け、慌てたのが清二である。

彼はそのとき、卓巳が調べたとおり南青山のマンションにいた。愛人を住まわせているが、物件の所有者は清二ではなく、父親である。

奈那子と結婚するとはいえ、とくに彼女に対する感情はない。

妊娠中の奈那子とセックスする気にはならず……。かといって、身体のラインが少年ぽく、色気のない悠里は清二の好みではなかった。彼の好みは性技に長けた年上の女性だ。太一郎とはある意味、対照的と言えよう。


だが、政界で生き残るためなら好み云々は関係ない。

清二は奈那子の祖父、桐生老の庇護をなんとしても必要としていた。それさえ受けられれば、父のほとぼりが冷めたころに、清二は泉沢の地盤で出馬可能となる。

奈那子のお腹に清二の子供がいるなら、まず百パーセント反対はされまい。彼は愚かにも、それだけで安心していたのだった。


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