愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(31)父親の資格
「テメェじゃねぇよ。子供の父親はこの俺だ。間違えんな」


腕にしがみ付く奈那子を背後に押しやりながら、太一郎は答えた。それは嘘偽りのない、心からの言葉だ。

だが、そんな太一郎を見て、清二は鼻で笑った。


「そんな見え透いた嘘を……。馬鹿な男だな。調べたらわかると」

「馬鹿は貴様だ」


そう言いながら玄関から入って来たのは卓巳である。


「お前は……確か、藤原の。クソッ! 誰も入れるなと言ったのに……役立たずな連中だ!」


清二は卓巳の顔に見覚えがあるらしい。太一郎だけでなく、卓巳まで通した父親の部下を口汚く罵った。

そんな清二を無視して卓巳は言葉を続けた。


「夫婦の間の子供として届け出れば、当然、奈那子さんが産む子供は太一郎の子となる」

「事実は違うんだ! 検査をすればすぐに」

「その検査を許可するのは戸籍上の両親だ。拒否すればおしまいだな。百歩譲って検査を受けたとしよう。貴様と子供に親子関係が認められたとしても、それだけだ。親子関係を否認する権利は、太一郎にしかない。――クズは失せろっ!」


卓巳の恫喝(どうかつ)に清二は震え上がった。

あとずさりしながら、それでも清二は父親の名を口にする。


「ぼ、ぼくをコケにして……。父が黙ってないからな。藤原グループなんか……」

「同じ理屈が通用するか、下で待っている警察に試してみるんだな」


その言葉に清二は慌てふためき飛び出して行った。


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