愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
だが実際のところ、清二を逮捕させるのは難しいという。『有印私文書偽造』も、調べれば奈那子の直筆とすぐにわかる。
太一郎の件で脅してはいるが、脅迫罪が成立するかどうかは微妙なところらしい。
卓巳の判断としては『不起訴』だが、奈那子の軟禁場所を調べる意味で警察を利用したのだった。
「太一郎さん……どうしてここが? それに、入籍って」
「婚姻届にちゃんとサインしてたろ? それを提出しただけだよ。卓巳がすぐにやれって。そうしたら、誰も手は出せなくなるって言うから……」
「でも、そんなことをしたら桐生の父が黙ってはいないでしょう? それに、泉沢先生も怒らせてしまって。藤原の家に、ご迷惑をおかけすることになったら」
「いや、それは」
確かにそれは、太一郎が最も避けたかった事だ。
藤原の名前には頼らない。二度と卓巳に迷惑はかけない。それを心に決めて、太一郎は家を出たのである。
奈那子の父に知られたら、藤原家に類が及ぶことは避けられない。本当ならなんとか子供が産まれるまで逃げ切って、桐生や泉沢の件が片付いてから結婚すればいいと考えていた。
だが、子供を処分させようとする桐生だけでなく、清二が子供の存在を知ったとなれば話は別だ。
先に入籍という手を使われたら、それこそ太一郎の出番は永久になくなる。そう思った瞬間、太一郎の中にたとえ様のない喪失感が生まれた。
太一郎は卓巳から『すぐに決断しろ』と迫られ、入籍を決めたのである。
「奈那子さんですね。はじめまして、藤原卓巳です。太一郎がお世話になっています。どこも、具合の悪い所はありませんか?」
卓巳にしては穏やかな声と表情で、奈那子に一歩近づいた。
「はい、大丈夫です。その……この度は大変なご迷惑をおかけすることになってしまい、本当に申し訳ございません。なんと詫びしたらいいのか……」
身の置き場がないように頭を下げる奈那子に、卓巳はあっさりと答えた。
太一郎の件で脅してはいるが、脅迫罪が成立するかどうかは微妙なところらしい。
卓巳の判断としては『不起訴』だが、奈那子の軟禁場所を調べる意味で警察を利用したのだった。
「太一郎さん……どうしてここが? それに、入籍って」
「婚姻届にちゃんとサインしてたろ? それを提出しただけだよ。卓巳がすぐにやれって。そうしたら、誰も手は出せなくなるって言うから……」
「でも、そんなことをしたら桐生の父が黙ってはいないでしょう? それに、泉沢先生も怒らせてしまって。藤原の家に、ご迷惑をおかけすることになったら」
「いや、それは」
確かにそれは、太一郎が最も避けたかった事だ。
藤原の名前には頼らない。二度と卓巳に迷惑はかけない。それを心に決めて、太一郎は家を出たのである。
奈那子の父に知られたら、藤原家に類が及ぶことは避けられない。本当ならなんとか子供が産まれるまで逃げ切って、桐生や泉沢の件が片付いてから結婚すればいいと考えていた。
だが、子供を処分させようとする桐生だけでなく、清二が子供の存在を知ったとなれば話は別だ。
先に入籍という手を使われたら、それこそ太一郎の出番は永久になくなる。そう思った瞬間、太一郎の中にたとえ様のない喪失感が生まれた。
太一郎は卓巳から『すぐに決断しろ』と迫られ、入籍を決めたのである。
「奈那子さんですね。はじめまして、藤原卓巳です。太一郎がお世話になっています。どこも、具合の悪い所はありませんか?」
卓巳にしては穏やかな声と表情で、奈那子に一歩近づいた。
「はい、大丈夫です。その……この度は大変なご迷惑をおかけすることになってしまい、本当に申し訳ございません。なんと詫びしたらいいのか……」
身の置き場がないように頭を下げる奈那子に、卓巳はあっさりと答えた。